『大学』 – 四書の初めに読まれる書

『大学』は四書(大学、論語、孟子、中庸)の1つであり、四書のうちでもっとも最初に読むべき書とされます。元々は五経の1つである『礼記』の中の一編ですが、特に重要な編として独立して抜き出されて四書の1つとされました。

湯川秀樹の『旅人』にも見られる『大学』

 
中間子理論で日本人として初めてノーベル賞(物理学)を受賞した湯川秀樹の自伝、『旅人』の中には、

私が五つか六つの時だったろう—父は祖父に、

「そろそろ秀樹にも、漢学の素読をはじめてください」

と言った。

とあり、湯川秀樹も『大学』から素読を始めたことが記されています。湯川秀樹はその時を振り返り、「むずかしい漢字のならんだ古色蒼然たる書物の中に残っている、二千数百年前の古典の世界へ、突然入っていくことになった」と表現しており、夜ごとに30分か1時間ずつ「微動もしない非常な岩壁」に向かい合う時間が辛かったと記しています。

ただ、「漢籍の素読を、決して無駄だったとは思わない」とも言っています。

私の場合は、意味も分からずに入って行った漢籍が、大きな収穫をもたらしている。その後、大人の書物をよみ出す時に、文字に対する抵抗は全くなかった。漢字に慣れていたからであろう。慣れるというのは怖ろしいことだ。ただ、祖父の声につれて復唱するだけで、知らずしらず漢字に親しみ、その後の読書を容易にしてくれたのは事実である。

(湯川秀樹 『旅人』より抜粋)

無論、現代は漢字が読めるだけでなく、英語やその他の言語も読み、様々な知識・見識を身につける必要がありますが、漢字という我々自身の言語の根幹をなす文化を身につけることは、依然として重要だろうと思います。

儒学の根本原理を端的に記した入門書

 
『大学』は儒学思想の概要を捉えるのにもっとも手頃な入門書とも言われます。『大学』を四書の1つとして尊重したのは南宋の朱熹(朱子学の大成者)ですが、それ以前にも唐の韓愈という人物が『大学』の内容に注目しています。

三国志の時代から混乱が続いた中国では、インドから入ってきた新興宗教の仏教が流行します。中国史上、唯一の女帝である則天武后も仏教を信奉し、自らを弥勒菩薩の生まれ変わりであると称したと伝えられます。

この仏教の隆盛に対して、儒学は衰退する。そこで韓愈は、個人の内面ばかりを重視する仏教に対して、自らの修養を通して国家社会に貢献することを旨とする儒学を再び興すため、『大学』を引用し、修己(しゅうき、自身を修める道徳)と治人(民衆統治の政治)を一貫させることが儒学の本領と説きます。

現実に徹した修養が儒学の本領

 
この儒学の根本原理、本領である「現実に徹した修養」をもっとも平易簡明に記しているのが『大学』というわけです。だからこそ、儒学の入門書と呼ばれ、四書の最初に読まれる。細かな解釈・注釈はたくさんありますが、重要なのはこの点だと思います。

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