雨樋

屋根で受けた雨水を流し、導く、雨樋(あまとい、あまどい)という仕組みがある。

その起源は古く、奈良時代(700年代)には仏閣において、その存在が確認できるという。当時のほとんどの建築は茅ぶき・草ぶきで、屋根自体が雨水を吸収するものだが、神社仏閣では瓦ぶきの屋根が使われており、雨水を処理するための雨樋が設置されたようである。

 

繰り返しになるが、雨樋が必要になるのは、水を吸収しない素材が屋根に使われるケースである。そのため、長い間、一般的な家屋に雨樋が設置されることはなかったが、江戸時代になって、都市が発達するようになると広く普及する。

江戸といえば、大火に苦しんだことで有名だが、密集した建物でなるべく火が燃え広がらないように、茅や草ではなく瓦ぶきの屋根が推奨されたという。また、密集した家同士で、雨水がそれぞれの敷地や壁を侵食しないように、設置されたという面もある。雨樋は自分の家を守るためにも、近隣の家を守るためにも必要なものである。

 

当然だけれど、雨樋は晴れた日には何もしていない。しかし、雨というものは必ず降るものだし、時に激しく降るのだから、雨樋(もしくはそれに当たる機能)を持たない家は存在しないだろう。

組織も似ていて、晴れている時には何もしていない人、というのが必要だと思う。つい、「あいつは何もしていない」と言いたくなるし、言われた方も肩身が狭いような気持ちになってしまうけれど、それが組織の持続可能性を高めている。雨樋のように、緊急時の対応力になるのはもちろん、人間の集まりにおいては、そういう人がいることで息苦しさが和らぐという面もある。雨樋というのは自然の理を解した、なかなか良くできた仕組みだなと思う。