二元論であったり、トレードオフであったりという考え方は必ずしも好きではないけれど、シンプルでかつ、真実を穿っていると感じる。だからこそ、汎く世の中で用いられているのだろう。
人間はとかく、物事の一面を見る。ポジティブな面に執着してしまうこともあるし、ネガティブな面に囚われてしまうこともある。それは多分に、感情のためだろう。事象そのものを見るということは基本的には困難で、人間は過去の経験に基づく、自分の尺度の中でうまく情報を処理しようとする。
怒られたくないと思って取り繕ったり、自分を可哀想だと思って落ち込んでみたり、他者との関係性の中で感情が生まれて、いろいろなことを考える。それはある意味で、生きるための知恵でもある。
ただ、事象には常に複数の面があるし、多くの事象はトレードオフという性質を持っている。例えば、「分散投資」という考え方はリスクは小さいが、大きな投資はしづらいし、機動力も落ちる。正社員の雇用は事業環境の変化に対して弱いが、組織へのコミットメントはやはり変わってくるだろう。1人は寂しいかもしれないが、嫌いな人に会わなくてよいのは良い面だと思う。
一面的な見方が自分を救ってくれることもあるし、多面的な見方が自分を救ってくれることもある。見方に正しさがあるわけではないので、「見方の見方」を知るということが大切だろう。その点で、トレードオフという視点は、没頭して行き詰まりそうな時の有用な知恵だと思う。