諸行無常、万物流転などといった表現を引くまでもなく、事物は変化を続けている。デザインするとはつまり、多くの場合においては「均衡をデザイン」することである。
ボストン・コンサルティング・グループの設立者で、会長を務めたB.D.ヘンダーソンは戦略を「競争の均衡関係」として考えるというアイデアを、『経営戦略の核心』において提出している。現在の均衡関係を崩して、より有利な均衡関係をつくりなおすのが見事な戦略である。
戦略という考え方が軍事行動を参考にしたものであるため、ビジネスにおける戦略論においても、しばしば「選択と集中」という表現が用いられる。これはつまり、自分の強みを相手の弱みにぶつけることによって、勝利を得ようとするものである。もちろん戦略目標に依存するが、「いつまでも続く作業」である企業経営においては「均衡関係」をデザインすること、および、その移行・維持に伴う打ち手の束を戦略の全体像と捉えた方が合理的であろうと思う。
デザインする対象の硬さ・柔らかさによって、均衡があたかも静止のように見えることもあるだろうが、どんな対象も永遠でない以上は「均衡をデザイン」しているという意識を持つことは大切だと思う。静止とは、単に扱おうとしている対象の変化と時間を比較した際に、変化を十分に無視できるという近似を許しているに過ぎない。
変化を意識することで、その均衡が持つ意味であったり、その均衡を可能にしている要因、重要な変数、可変性であったりといった情報に触れることができる。
なぜ均衡であったり、変化であったりを意識することが重要かというと、「より良い均衡関係をつくりなおす」ことがデザイン行為において非常に困難、かつ、極めて重要であるから、である。デザイン行為を「適合の発見」と捉えると、現実には到達しえないかもしれない理想の適合に向き合い続けることに、行為の尊さと要諦があると思う。
うまくいっている時に、デザインを再検討することは難しい。そんな必要はないと感じるし、あまりに疑いの目を向けてしまうと、日々の活動に支障をきたす。一方で、デザインが破綻し始めると、それはそれでそれどころではなくなる。常に見直さなくてはいけないことは明らかなのに、見直す余地がないようにも感じる。
B.D.ヘンダーソンの表現を借りると、「現在を成立させている原因を完全に把握しなくては、将来を生み出せない」ということになる。完全に、という表現はいかにもコンサルタントらしいが、理想としてはそうだろうとも感じる。
好みの問題ではあるが、デザインはなるべく適合がシャープであると同時に、適合の範囲が広い方が好ましいことが多い。また、デザインされたものは残っていく以上、デザインは常に将来のためにある。そう考える時に、デザインとは時間的に連続したものであり、この瞬間のデザインは何らかの均衡関係であるという捉え方は大切だと思う。